< 2020年8月号 >
特集/推進工事の施工管理における工程・品質・安全
総論:国土交通省、(公社)日本推進技術協会
解説:アースナビ推進工法協会、機動建設工業(株)、(株)協和エクシオ、サン・シールド(株)、地建興業(株)、(株)福田組、りんかい日産建設(株) ほか
連載:巻頭言/今月の推論/随筆/ゆうぞうさんの山紀行/会報/その他

月刊推進技術
2020年のスケジュール

月刊推進技術
編集委員会名簿

2011年12月号

特集/小断面並列施工で地下空間を築造

 推進工法は、ライフラインの敷設を代表する様々な地下インフラへの適用がなされ、その利用は拡がっています。地下インフラに適用されている推進技術の一つとして、いわゆるパイプルーフ工法があります。パイプルーフ工法とは、トンネル掘削に先行して掘削断面外周に沿って、一定間隔に鋼管を連続に設置し、所定の範囲内に鋼管によるルーフ(屋根)を形成する工法です。パイプルーフ工法は、鋼管の厚みを変更するだけで、地山荷重等に対して必要な合成が確保できる土留めが設置できるため、地下空間掘削において確実性が最も優れていると評価されている施工方法です。そして、小口径管をボーリング方式で打設する工法がその施工の始まりでしたが、パイプ敷設に推進工法の技術が取り入れられるようになり、その用途や適用範囲が拡がりました。さらに現在では、このパイプルーフ工法のような小断面並列の連続敷設は、単に鋼管(パイプ)だけではない様々な形状の推進を連続で組み合わせることで、地下空間築造やインフラの整備に用いられています。
 汎用性機器を使用した小断面並列の連続掘削、連結による方法は、その機能の相違によって形が一定化できない土木構造物においては、経済的な施工法と評価され、採用例が増加していると推察されます。また輻輳した地下埋設物の下や小土被りでの施工では、掘削による影響が少なくなる小断面での施工が適していることも一因でしょう。そして、需要の増加に伴い、このパイプルーフ工法に代表される小断面並列による地下空間築造には、各種の推進工法関連の先端技術が利用されています。
 本誌では、この「小断面並列施工による地下空間築造における推進工法技術」に着目し、これらに採用されている各種推進技術や施工事例を発表いただく、特集を企画しました。地下空間築造の推進工法の選定に役立てていただくとともに、ライフライン敷設とは異なる推進技術に着目することで、推進工法の適用範囲拡大の参考となることを期待します。
(編集担当:佐藤 徹)

2011年11月号

特集/完全非開削に向けて
   〜取付管推進工法〜

 小口径管推進工法は、管きょ工事の敷設に最も省資源・省エネルギーで環境に優しい工法として認知され、多用されるようになってから久しいものがあります。
 しかしながら現行では、本管を非開削である小口径管推進工法で施工しているにもかかわらず、公共ます(雨水ます・汚水ます)等と本管を結ぶ取付管の施工を開削工法で行っているため、本来の非開削工法の特長、意味合いが薄れていることも事実です。
 また、本管の埋設深さが大きい場合では、開削工法での取付管の接続が困難を極めるために、あえて取付管を接続するためにさらにサービス管を敷設して行うケースも見受けられます。
 現在供用されている取付管推進技術は、公共ます側に掘進機台をセットし、本管へ接続する一連の作業(外殻鋼管の削孔→鋼管内の洗浄と本管の位置確認→本管削孔とコアの回収→塩ビ管(取付管)の挿入と本管との中込め材の充填→養生および外殻鋼管の引抜き)を、全て推進管内から処理する「完全非開削取付管推進工法」と、本管接合部の確実性を図るため、本管到達側の接続部を開削工法(φ900mmによる深礎工法)で処理する「部分非開削取付管推進工法」などが実施されています。
 今回、特集として“完全非開削に向けて−取付管推進工法−”を企画したのは、対象本管が肉厚の薄い塩ビ管(VU管)への非開削による施工が可能であること、あるいは埋設深さが1.5mを切るような小土被りであっても、舗装構成によっては開削工法より安価となるケースもあること、また、施工精度を確保しつつ3mを超す大土被り、玉石や礫層などの過酷な施工条件をクリアした実績を、主に自治体や設計コンサルタント等の職員に紹介し、改めてご認識頂くとともに、これらを設計等に反映、活用して工事費の縮減を図って頂くことを目的としています。
 「完全非開削技術」の確立に向けて、取付管のマンホールへの直接接続、あるいはマンホール間に「小型マンホール(またはハンドホール)」を設置して取付管を接続する、いわゆる「スターコネクション方式」による収集システムを採用することも、完全非開削における有効な方法であると考えられます。
 本特集をとおして、現行の取付管を本管に直接接続する収集システムも見直す契機となり、これらスターコネクション方式の採用の是非に対する呼び水になれば幸いと思っています。
(編集担当:阿部勝男)

2011年10月号

特集/総合評価と技術提案

 推公共工事が減少しているなか、過当競争による低価格入札が横行し、品質の低下や安全の確保が懸念されるため「公共工事の品質確保の促進に関する法律(以下、品確法)」が平成17年4月から施行されました。これを受けて、国や地方自治体等の工事入札において、入札価格のほか、品質や安全に係わる執行能力の妥当性、技術提案された内容の実現性と創意工夫性などを多面的・総合的に評価を加えて落札者を決定する、いわゆる「総合評価落札方式」が拡大・定着しつつあります。
 しかし、品確法に基づき導入された総合評価落札方式も、既に6年を経過していますが、地方自治体においては、未だに浸透度が低い状況にあります。
 既に組織的なダイエットを重ねている自治体にとっては、公募方法、評価から落札者を決定に至るまでの一連の審査等に、多くの時間と労力を要することが負担となっています。
 また、技術提案の評価が比較的大きなウエイトを占める「標準型」においては、評価事項の採点方法が不明瞭なことも否めません。
 推進工事において、長距離・急曲線、小土被り、重要構造物等の近接施工等では、技術面での施工の困難性が伴います。提案は「施工」に関することです。したがって、指針等で示されている一般的な留意事項とは異なり、本来、そこには相違工夫性のある差別化した提案が求められます。しかしながら、適正な提案とは別に、品質、安全、環境に係わる応札者の提案内容は、「発注者の意に沿ったものであるか?果たして理解することができるのだろうか?」の意識に終始し、品格法の目的とは隔絶の感があることも否めません。ややもすると高度な技術提案は、理解されずにむしろオーバースペックと判断されて減点の対象となり、憂き目を見た提案者も多いのではと思われます。
 同時に評価項目および条件設定と採点方法が不適切かつ不明瞭な例も見受けられます。特に、参加資格要件をはじめとし、「施工実績」などでは、推進工法を理解して設定されたものなのか、などの疑問符の付く例も多くあります。また、限定された地域による施工実績(地域用件)のウエイトが大きいなど、恣意的とも思える条件の設定が見受けられます。
 総合評価落札方式の意図するところは、価格のみで決定しない落札方式であり、何よりも客観的な指標に基づく公正かつ公平な運用がもとめられます。また、入札参加者に評価項目の選定や技術提案の最終判定の基準等をある程度的確に説明することが求められます。
 総合評価落札方式は、発注者並びに応札者側に大変な時間と労力を伴います。既に制度の導入から前述のとおり6年を経過していますが、“道半ば”との想いがします。
 今後、さらに検討を加えて、技術的な評価が適正に反映される制度の確立が望まれます。
 本特集では、現在実施されている総合評価落札方式について、座談会などをとおして実施プロセス等の課題を明らかにし、また、各自治体の取り組みなどの紹介も行い、品確法の目的とするところへ一歩でも近づくことを意図して企画いたしました。
 本特集を契機として、推進工事に関しての総合評価落札方式の発注に携わる自治体並びに応札する方々の参考となれば幸いです。
(編集担当:阿部勝男)

2011年9月号

特集/難敵異物に打ち克つ

 推進工法におけるトラブルの中で近年特に多いのは「障害物」に関するものです。既設構造物の密集した都市部はもちろんですが、それ以外の場所でも木杭・流木やコンクリート殻・改良体・転石などはもちろん、変わったところでは地盤改良機のロッド先端を地中に置き忘れたものや江戸時代の縦穴の陶器の捨て場、第二次大戦中の不発弾と思われるものなどありとあらゆるものに遭遇することがあります。刃口推進工が全盛の頃であればこのような障害物の出現は撤去に手間取るロスはあるものの、撤去可能であればそう大きな問題にはなりませんでした。しかし、現在の密閉型機械推進の場合は事前に予測して対応を講じた場合以外は、切削・取込みが不可能で推進を停止しなければなりません。
 今月号ではトラブルの中でも特に対応困難な障害物について特集し、事前調査から設計施工・障害物への対応・設計変更に対する考え方までをそれぞれの立場で事例を交えて語っていただきたいと思います。
 まず、障害物が想定されたものであるか想定外の遭遇であるかによって状況は全く違うため、事前の調査が重要な項目になります。近接構造物の過去の竣工図面や埋設物の現況図および現地踏査・試掘などによって障害物の出現の可能性を想定することは可能ですが、往々にして記載漏れや図面の紛失などによって見逃すこともあるようです。設定路線上に障害物の可能性がある場合、その材質や位置の把握精度によって対応策が変わりますが、できる限り安全サイドの判断をするべきですし、不安であればさらに詳細な調査を行うことも必要です。また、推進途中で前方の障害物の存在が判明して路線を変更したり撤去まで推進工を停止したりするケースもあるようです。
 不幸にして推進中に障害物に接触して停止した場合は、障害物の調査(探査)・把握をしてから対応の検討になりますが、その対応は状況に応じてケースバイケースのようです。障害物が地上から撤去可能であれば撤去しますし、撤去不可能ならば地上や機内からの破砕や推進管の引抜や迎掘などを検討します。また、事前に予測されていれば障害物切削可能な掘進機の使用や機内からの障害物撤去などの方法がとられることもあるようです。いずれにしても推進専業者や掘進機メーカーそれぞれに多くの経験とノウハウがあるのでないかと思います。実際の対応としては小口径管・中口径管・大口径管推進によって異なりますし、推進工法の別によっても異なると思われます。
 今月号では「障害物」にスポットを当てて事前調査から検討・施工完了までいろいろな事例の紹介をしていただいて、それぞれの段階での留意ポイントを明らかにするとともに、本来あるべき姿を探っていきたいと思います。
(編集担当:阿部勝男)

2011年8月号

特集/トラブルゼロをめざす

 推進工法は地中を管体が移動してゆく工法であるため、日々刻々変化する状況に対応した施工を行なわなければならない工法です。そのため、どんなに多くの現場を経験した技術者でも新しい現場に着手するときは初心に帰って謙虚な姿勢で状況を把握する必要があり、その情報に基づいて的確に対応を判断しなければなりません。それゆえ、苦労して到達したときの喜びや充実感は他の工法では味わえないほどすばらしいものがあります。
 しかし、最近の推進工事は技術的な対応が難しい難度の高い施工が増加しており、これに伴いトラブルの発生頻度・件数が増え個々の工事におけるダメージも大きくなっています。それでなくても推進工法の発注単価は低下の一途をたどっており、発注件数の減少と相まって、受注時にはトラブルに対する予備費などの余裕を見込むことは難しく、トラブルによるダメージがあれば確実に損失になるような状況です。先にも述べましたが、推進工法は管列全体が地中を移動するため状況の変化は不可避であり、その対応が遅れたり間違ったりすればすぐさま大なり小なりのトラブルに直結します。推進工法にかかわる者は常にトラブルに対する注意と対応を怠らず、正しい認識を持つことが必要だと考えます。
 トラブルの対応の第一歩は設計段階での配慮で、十分な事前調査に基づいた適切な設計(路線設定・スパン割・管種選定・工法選定など)が基本です。その次には施工着手前の事前検討を十分に行なって適切な施工計画を行うことです。その際には設計に基づいた施工方法を前提に、現地の土質の再調査や施工環境・近接構造物・地下水などを調査して、適切な施工方法を提案する必要があります。そのような綿密な調査検討を行ってもやむを得ずトラブルが発生することも有りうることで、そのような場合には状況の把握と原因の究明をまず行って適切な対応策を講じなければなりません。その時に考慮しなければならないのは「推進工法は時間の経過に伴って状況が変化する」ということです。つまり、あわてて間違った方策を講じることは論外ですが、出来るだけ時間をおかず適切な対策を決定して実行しなければならないということです。トラブル対応で施工承認や設計変更が確定しないために施工が停止するようなケースが間々見受けられますが、推進工法と時間経過の関係を認識して迅速な対応を心掛けたいものです。
 しかし、現状は施工者による対症療法的な対応が先行して、発注者や設計者にはおざなりな報告がなされているように思います。トラブルについては外部への公表が憚られるものですが、この問題に対する発注者・設計者・施工者の認識を一つにすることは迅速で適切な対応によってトラブルを解消することにつながると考えます。今月号では推進工法にかかわる種々の立場から、トラブルの現状と対応に関して言いにくいことも含めて忌憚のない意見を掲載いたします。
(編集担当:中野正明)

2011年7月号

特集/ここまで進化した推進技術

 推進工法の歴史をたどれば、19世紀末にアメリカ北太平洋鉄道下でコンクリート管が埋設された記録や、第一次世界大戦中のヨーロッパ戦線や日露戦争での坑道戦に用いられた記録が残っており、100年以上も昔にその原型をみることができます。
 我が国においては、1948年(昭和23年)に、軌道下にガス管を敷設するために内径600mmの鋳鉄管をさや管として敷設した事例が最初の推進工事です。推進工法は、建物が密集し道路が狭隘で地下埋設物が輻輳する日本の都市部において、開削工法に比べ、通行止めによる交通障害や工事による振動・騒音など、周辺の交通や住民の生活環境に与える影響が極めて少ない工法であり、まさに我が国の都市事情にマッチした工法として、急速な都市部のインフラ整備が進められる中で急速に普及しました。
 推進工法の開発当初は、施工条件も限られ適用範囲も狭く、施工中のトラブルも多く発生しましたが、先達の創意工夫とチャレンジ魂により改良・開発が積み重ねられ独自の発展を遂げました。現在では都市部における地下トンネル築造の一般的な工法となり、その技術レベルは世界最高水準にまで達しています。
 一口に推進工法と言っても、用途に応じた様々な工法が開発され多くの種類があります。また、工法を構成する要素技術をとってみてもそれぞれ独自の長所を持った多様な技術により構成されています。本特集は、このようなわが国の推進工法に関する技術全般について、推進工事の実務に携わる方々に最新情報を提供することを目的としました。
 昨年の7月に同様の特集を掲載しましたが技術の進歩は早く、本号では、その後開発・実用化された技術、また前回紹介できなかった情報を加え、最新のものを紹介するように務めました。本特集が読者の方々の知識を深めるとともに、推進工法が社会資本整備の拡充のためにより一層活用される一助になれば幸いです。
(編集担当:西口公二)

2011年6月号

特集/きびしい施工条件を克服
   〜鋼製さや管方式編〜

 小口径管推進工法は、管きょ工事の敷設に最も省資源・省エネで環境に優しい工法として認知され、多用されるようになってから久しいものがあります。
 このうち、「鋼製さや管方式」の外殻鋼管の推進方式については、パイプルーフや山岳隧道の先受けとして、古くから用いられてきた馴染みのある工法で、言わば老舗的な存在です。
 鋼製さや管方式には、ボーリング、オーガ方式のほか、パーカッションによる圧入方式、泥水方式などがあります。
 同方式は、鋼管を推進する構造上の特性から、河川の横過などに採用され、また、管の摩擦による損傷が懸念される、砂礫、玉石、転石、岩盤などの地盤に適用可能です。
 また、同方式の多くは、泥水方式を除き、推進メカニズムと精度を確保する上から推進延長が、空気衝撃ハンマ・ラムによる圧入方式で20〜30m、オーガが40〜50m、ボーリング方式の二重ケーシング式においても50〜60mと比較的短いことも同方式の特長と言えます。
 しかし、鋼製さや管方式に代表されるボーリング方式と一部のオーガ方式においては、方向制御にやや難点があるものの、既設マンホールへの切削接続のほか、掘削ビットの引抜き交換等の対応により、支障となる杭や鋼矢板を切断することが可能であることなどから、小口径管推進分野では過酷な条件下で用いられ、また、他の方式がトラブルに見舞われてお手上げ状態の場合等に、最後の拠りどころとしても採用されています。
 現在、鋼製さや管方式において、国交省で示されている標準歩掛りは「オーガ掘削鋼管推進工法」のただ一つです。
 これは、鋼製さや管方式が前記のとおり、主に玉石や転石が出現する地盤、また、杭等の支障物を除去・切削などの過酷な施工条件下で採用されており、標準的な歩掛りに反映することが困難であることを意味しています。
 本特集を通して、施工途中における予期し得ない支障物や地盤に遭遇し、これを克服するために多くの時間と費用が伴うことも、発注者には理解して頂きたいと願っております。
 また、鋼製さや管方式に携わる企業関係者には、他社の開発技術及び他分野の技術を垣間見て頂くことにより、自社技術の新たな踏み出し、前進の一助となれば幸いと存じます。
(編集担当:阿部勝男)

2011年5月号

特集/きびしい施工条件を克服
   〜低耐荷力方式編〜

 現在、わが国の推進工事のなかで最も多くの施工実績を有している低耐荷力方式推進工法は、その姿を初めて見せてすでに30年近くになります。高耐荷力方式と異なり、推進管に直接推進力をかけず、土による周面抵抗力のみを負担させる方法はそれまでの推進工法の概念を大きく変えました。この推進管が初めて下水道推進工法用硬質塩化ビニル管(K-6)として規格化されたのは1995年ですが、最近では、2009年3月に規格改正が行われ、SUSカラー付き直管とスパイラル継手付き直管のみが適用を受けることになりました。多くの実績を経て、この2方式だけが低耐荷力方式の推進工法では最もふさわしい継手形式と認知されたと言えます。
 低耐荷力方式では、呼び径150〜450までの硬質塩化ビニル管を推進管として用いますが、これらは軽量で施工時の簡便性や腐食性環境下においても影響を受けにくい優れた性質を有している他、下水道管きょが幹線から面整備にシフトしたこととあいまって飛躍的に採用実績を伸ばしてきました。しかし、この硬質塩化ビニル管を推進工法で用いる場合、実は意外に制約や課題が多いということをご存じでしょうか。標準的には礫地盤が適用土質から除外されている他、柔らかい腐植土地盤では施工精度の確保に難点があるなどの問題もあります。しかし、工法によっては、それらを適用範囲内としているものもあり、計画設計に携わる方々にとっては、工法選定上、非常に判断に苦しむ場合があるものと思われます。その他の課題としては、設計上、耐震性能についてしっかりとした議論がなされているとは言えない面があり、統一した意見としてまとまりに欠けている印象があります。さらに、積算過程がその工事規模に比して煩雑で、発注者においては実施工との乖離を感じる計画設計となっていることも多々あるのではないかと思われます。その他、発進・到達立坑としてケーシング(小型)立坑を利用することが多くなり、その結果、従来の2m管ではなく、ほとんど1m管が標準になっている現状は、本来の下水道管きょに求められるべき品質確保面で問題は生じないのかと言った疑問もあります。
 そのような問題が山積するなかで、現在、この低耐荷力方式の新技術を世に送り出した方々をはじめ、設計や施工に携わっている方々は、それらの課題に挑戦し、難題を解決しながらここに至っています。それらの方々が、さらに、従来のいわゆる標準的な適用範囲を超えて一歩も二歩も先を見ながら、挑戦し続ける低耐荷力方式の推進技術を感じていただければ幸いです。
(編集担当:川相 章)

2011年4月号

特集/きびしい施工条件を克服
   〜高耐荷力方式編〜

 2011年度、新年度が始まりました。また、当協会も新年度より“新たな公益法人”として、社会公共福祉の増進に寄与することを目標に、各種事業を積極的に展開していきます。その魁として、今月号から3回にわたり、小口径管推進工法3方式について、特集「きびしい施工条件を克服」シリーズを予定します。
 2008年度の下水道管路の年間施工延長は約8,120km、うち推進工法によるものが608.6km、そのうち呼び径700以下の小口径管推進が489.5kmと、何と80.4%を占めています。今日、下水道事業での8割を超える推進工事が小口径という時代です。このシリーズでは、推進工法における今後将来の技術進展の動向を見るうえで、その主体となる小口径管推進工法各方式に注目し、その最先端、先駆的な施工実績を確認し、さらにその先にある開発目標を探りたいと思います。その第1弾が、今月号「高耐荷力方式編」です。
 そもそも今日の小口径管推進工法技術は、昭和50年4月の旧労働省労働基準局長通達から必然的に生まれました。この通達により“内径が800mmに満たない管内での人的作業は一切禁ずる”措置がなされました。それまでは、口径600mmまでの推進管には作業員が無理を押して入りました。現に、我が国最初の推進工事は昭和23年、口径600mmの鋳鉄管でした。
 さて、推進管内で人的作業ができないとなれば、従来のままの方式では推進工事はできません。切羽の現場確認ができない、排土のトロ搬送ができない、滑材の追加二次注入ができない、裏込め注入ができない、管内人的測量ができない、中押しができない、推進管継ぎ手部の止水確認ができない、などなど“できない”尽くしとなりました。この一つひとつの難題を時間と努力を重ね、着実に解決方策を見出し、構築し、工法システムとして全体調整をなした成果品が、今日、社会に評価され、広く活用される高耐荷力方式での各種推進工法となっているのです。そして、これらの標準的適応範囲が、当協会発行の「設計積算要領:高耐荷力編」に示され、それに基づき、各発注機関において工法選定、計画設計、積算業務が進められています。
 しかし、過密化が進む大都市、複雑な地盤上に立つ地方都市、その道路下に管路を埋設あるいは再構築しようとする時、各工法が共有する適用範囲内で総ての需要を満たすことは不可能です。将来、現状を超える厳しい条件が社会から要請されることは必然でしょう。高耐荷力方式でみれば、標準距離を超えた長距離を一スパンで押したい、急曲線や鉛直曲線をしたい、巨石、転石、岩盤層あるいは超軟弱地盤で施工したい、小さな矩形管を押したい、狭いヤードないしは空間から発進したい、など、未来の社会は勝手、気ままかもしれません。その現状の技術水準を逸脱した超難度要求に対し、これからの小口径管推進技術は、果たして挑む技量と勝算はあるのか。それを感じ取っていただくことが、今回の特集のねらいです。
 今月号では、高耐荷力方式について、現行の標準適用範囲を超えた厳しい施工条件に対し、各工法が如何に挑み、その輝く成果を得たか、いくつかの事例を詳細に報告いたします。
(編集担当:石川和秀)

2011年3月号

特集/推進工法で集中豪雨に備える

 2010年の夏は近年になく猛暑が続き、今年の冬は久しぶりに豪雪が襲って、東北地方や北陸、山陰地方で多くの被害をもたらしています。わが国の猛暑と豪雪は、世界的な気候変動の影響ではなく、通常の気候のサイクルが回っていると考えられますが、都市部を中心に短時間に非常に激しい雨が降る傾向は顕著であり、雨水排水を中心とした排水機能の拡充が求められています。
 世界的には、人口増加と異常気象の影響で、集中豪雨と異常渇水が人々の生活を脅かす事例も少なくありません。日本では、年間降雨量や気温の変化をみる限り世界的な傾向ほどは異常とは思えませんが、時間降雨量が想定を超える場合も頻繁に起こっています。明らかに最近30年間で、時間降雨量50mm以上や100mm以上の雨は回数が急増しています。時間雨量ばかりでなく、4~5時間に200mm程度の雨も増加し、中小河川では洪水氾濫がおこり、都市域の河川で流域面積が小さなところでは雨域範囲が限定的でも下水道で雨水をはけないばかりか、河川の水があふれることも多くなっています。
 都市豪雨による水害に備えるには、豪雨によってどのような現象が起こるのかを予測することが重要で、そのうえで、十分な能力で排水流下させるか、一時的に貯留する方法があり、いずれも道路下などに管路を設置することが有効であると考えられ、被害の軽減を図っていくことになります。河川の洪水流下能力を点検し、河川から水があふれないような河道整備を図り、雨水排除のための下水道整備と、一旦雨水を貯留する大小さまざまな雨水貯留施設を整備して被害の軽減を図る方法があります。今回は、主要管理自治体の集中豪雨への対応とそれに関する推進工法の適用事例をご紹介していただきました。
(編集担当:平井正哉)

2011年2月号

特集/既設構造物への到達と地中接合技術

 「昨今、今までの経験を越えた局地的な集中豪雨が発生し、大都市部においては急激な雨水の流出による浸水被害に対する大きな脅威となっています。また、下水道管渠の老朽化による道路陥没災害も多発しています。これらの対策として、「雨水浸水対策」や「管きょ老朽化対策」の事業が進められていますが、特に雨水浸水対策では緊急整備優先地区等の雨水幹線管路網や増補幹線の整備が急がれています。
 近年都市部におけるトンネル建設工事では、上下水道、ガス、電気、通信等の地下埋設物が輻輳化し、地上部の作業スペースの確保も困難であり、また、交通規制、周辺環境への配慮等から、立坑築造や地上部からの大規模な地盤改良等の施工が難しくなってきています。
 このようなことから、下水道等の既設管きょに新設管きょを接合する場合、到達立坑を築造し大規模な地盤改良を施しながら新設管きょの接続を行う施工方法が一般的に行われていますが、到達立坑を造らずマンホールや管きょ等の既設構造物に直接接続する施工事例が近年増えてきています。
 このような既設構造物に直接接続する工事では、従来、掘進機の外殻部を地中に残置し、内部の機器を溶断・解体する方法が採られていますが、この方法は、狭隘な坑内での解体における作業環境が劣悪であり、転用性の高い掘進機を解体処分することから経済的でなくコスト高になる等の問題がありました。
 そこでこれらの問題を解決するため、掘進機を簡易解体・回収して再利用するなど様々な工法が開発され、現場へ適用されつつあります。
 今月の特集は、このような到達立坑を造らず既設構造物等に直接到達する工事に焦点をあて、これらの技術進捗の状況と工事例を報告し、公共工事のコスト縮減および循環型社会の形成の一助になればと考えます。
(編集担当:西口公二)

2011年1月号

特集/我が推進工法の海外進展

 「月刊推進技術」ご愛読の皆様、新年明けましておめでとうございます。2011年、平成23年、卯年のスタートです。昨年、我が国は、3年前(2008.09.15)のリーマン・ショックからの不況が癒えない身に、経済実態を超えた“円高”が加わり、経済面から閉塞感が一段と深まりました。また、沖縄普天間問題や、対中国、北朝鮮など、外交面での先行き不透明感も払拭できません。正に、内憂、外憂色を一段と濃くした年だったかもしれません。今年は卯年、この膠着状態から“脱兎”のごとく抜け出し、将来の飛躍に向けた第一歩としたいものです。
 そこで、この新春号では、2年前(2009.01号)に引き続き、「我が推進技術の海外進展」を取り上げました。前回は、海外進出への糸口を見出し、その展望を感じ取っていただくまででしたが、今回は、その実践に向け、現状把握と課題抽出、さらにそれらの解決に向けた対応策の提案まで、一歩でも踏み出したいとした企画です。
 まず、総論に替えた座談会では、前回の国土交通省、国際協力機構(JICA)に加え、実務として海外開発プロジェクトを担当するコンサルタントからも参加頂き、各課題に対し踏み込んだ具体的提言を頂きました。
 特別寄稿として、国土交通省に政府としての取り組みの現状と今後の展望について、また、推進工事の採用に積極的な台湾を一つのモデル対象国と選び、台湾政府側から下水道整備事業の現状と今後の展望を紹介頂いた後、解説では、これまで台湾で多くの推進施工実績を挙げてきた各企業から、推進工事受注に至った経緯、その中で自ら保有する推進施工技術のうち何に注目されたか、また、実施工に入った段階で、施工管理技術面、契約金銭面、社会生活面など、どのような現実課題に遭遇し、どう対応したかについて、相手国や企業に対し支障が生じない範囲で、できるだけ具体的に紹介いただくこととしました。さらに、今後将来、我が国の推進建設企業が、安心して海外進出し、そこで高い技術評価を受け、それに見合う経済的収益を得るには、誰が何をどうすればよいかなど、現実味のある提案を示していただきました。
 同じ視点から、韓国、マレーシア、カタールの事例についても検証しました。
 我が国の優れた推進技術の海外進出は、私たち推進関連企業にとって将来に向けた明るい夢です。ただ、海外の舞台では、優れた技術をもって、誠意ある良質な施工を心がければ、経済的にも報われる、とは現状では残念ながら難しいようです。日本国内での推進工事市場の先細り感、閉塞感から、単に、その逃避口を海外に求めるだけでは、危険極まりないことです。ここでは、まず、自らが目指す状態、条件に向けた道筋の見極め、そこに至る課題の抽出とその解決が必要不可欠です。その際、その解決策の実現に、自ら一人では対応しかねるのであれば、関係者、関係機関が協力、連携、団結し、それに当たることが肝要です。
 今回の特集がその新たな行動に向けた糧の一つになれば幸いです。
(編集担当:石川和秀)

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